外国人経営管理ビザ要件の厳格化と中小企業診断士の関係

中小企業診断士

産経新聞の記事によると、日本で起業する外国人向けの在留資格「経営・管理ビザ」の取得要件が大幅に厳格化される予定とのこと。その記事の中で「新規事業計画の中小企業診断士による確認義務付け」という内容があったので、気になって調べてみました。

制度改正の背景:なぜ経営管理ビザが厳格化されるのか?

まずは背景から確認しました。現在、「経営・管理」ビザは日本で起業する外国人向けの主要な在留資格ですが、要件が他国に比べて緩く悪用されているとの指摘があったようですasahi.com。具体的には、外国人が**ペーパーカンパニー(形だけの会社)**を設立し、実態のないままビザを取得するケースが問題視されていたとのこと。nagoyatv.com。実際、入管当局が2023年に疑わしいケースを調査したところ、その約9割で事業の実態がなくビザ更新が不許可になったというデータもありますasahi.com

こうした状況を受けて、日本政府は数多くの外国人を受け入れるよりも、日本経済に貢献してくれる起業家を厳選して呼び込みたいという方針となったといえると思います。

制度改正の内容:新しい経営管理ビザ要件とは?

では、具体的に何が変わるのか、新旧の要件を比較しながらポイントを整理します。

  • 資本金要件の引き上げ:現行では資本金500万円以上またはそれ相当の出資額があればビザ取得が可能でした。しかし改正案では、この資本金要件が原則3000万円以上に大幅アップしますnagoyatv.com。約6倍というインパクトのある引き上げで、「お金のハードル」が一気に高くなるわけです。
  • 常勤職員の雇用義務:1人以上の常勤職員の雇用も資本金要件の引き上げに加えて入っているようです。「お金も人も用意してね」ということですね。
  • 経営経験・学歴要件の追加:改正案ではビザ申請者本人の資質にも新たな要件が課されます。**「経営・管理に関する3年以上の実務経験」または「経営管理関連の修士相当以上の学位」**を持っていることが求められる方針ですnagoyatv.com。つまり、全くの未経験者がとりあえず日本で起業してみる、というのは難しくなり、一定のスキルや知識を持った人だけが対象になるということです。
  • その他の変更点:改正案では、現在定められている「上記に準ずる規模」といったあいまいな基準の撤廃も盛り込まれていますpublic-comment.e-gov.go.jp。今後は要件を明確にして、審査を厳格化する姿勢が見てとれます。また、ビザ申請時には事業計画の安定性・継続性について客観的データを示すことがより重視されるでしょう。実際、「数字で裏付けられたしっかりした事業計画書」がないと審査は通りにくくなると予想されています。
  • 施行時期と経過措置:この省令改正案は2025年9月24日までパブリックコメント(意見公募)が開始されています。すでに経営管理ビザで滞在中の外国人については、施行後ただちに新要件を突きつけるわけではなく、一定の猶予期間を設ける方針と発表されていますnagoyatv.com。つまり、今すぐに「明日から3000万円用意しないとビザが取り消し!」ということにはならないようですが、いずれ移行期間を経て新ルールに適合する必要が出てきます。

以上が改正内容の概要です。「かなり厳しくなるなあ」という印象を持たれたかもしれません。その通りで、現在このビザで滞在している約4万1000人のうち、新要件の資本金3000万円を満たす人はわずか4%程度にとどまると言われていますnagoyatv.com。つまり大多数の外国人起業家にとってハードルが格段に上がるわけです。

ちなみに、今回の厳格化にあたり検討段階では**「スタートアップビザ経由の人は例外扱い」という案もあったようです。しかし最終的には例外を設けず一律に新基準を適用**する方向になりましたasahi.com。自治体の支援で一時的に来日できる「スタートアップビザ」であっても、1年後に経営管理ビザへ移行する際には結局3000万円等の要件を満たさないといけない、ということになります。

診断士への影響とビジネスチャンス

では、こうした制度変更が中小企業診断士にどう関係してくるのでしょうか?

課題の解決役に診断士がなれる可能性

厳しい新要件は、外国人起業家にとって大きなハードルです。しかし裏を返せば、「そのハードルを乗り越えるための支援ニーズ」が高まるとも言えます。具体的に想像してみます。

新ルール下では、外国人起業家はビザ取得のために相当綿密な事業計画と資金計画を用意する必要があります。入管当局も事業の安定性・継続性をこれまで以上に厳しくチェックしてくるはずですから、数字やエビデンスに裏打ちされた説得力のあるビジネスプランが欠かせません。ここで活躍できるのが中小企業診断士の得意分野ですよね。市場調査や収支計画の作成、リスク分析など、「計画の実現可能性」を高めるお手伝いができます。外国人クライアントに事業計画書のブラッシュアップ支援を提供できるわけです。

さらに、新要件では少なくとも1名の常勤職員を日本で雇用しなければなりませんnagoyatv.com。人材採用や労務管理の面でも、外国人起業家は戸惑うことが多いはずです。ここでも診断士が橋渡しできる可能性が出てくるかもしれません。

英語スキルがチャンスに

上述のように、経営管理ビザの厳格化によって外国人起業家が直面する課題は増えます。その課題解決を支援する役割として診断士への期待が高まるわけですが、中でも英語で対応できる診断士にはチャンスといえるかもしれません。

クライアントである外国人起業家の多くは日本語に不安があるからです。ビザ要件の細かな説明や事業計画の詰めなど、母国語でない日本語で理解するのは容易ではありません。実際、今回の改正案自体も日本語で発表されていますし、行政手続きも基本は日本語です。英語でそれをかみ砕いて説明し、質問に答え、相談に乗ってくれる存在は、外国人から見て非常に心強いでしょう。

具体的な支援メニューの例

具体的な支援サービス例としては以下のようなものが考えられます。

  • ビザ取得トータルサポート:行政書士などビザ申請のプロフェッショナルと提携し、外国人起業家のビザ取得をビジネス面から支援します。診断士は事業計画書や資金繰り計画の策定を担当し、行政書士が入管への書類申請を担当する、といった協業モデルが考えられます。ワンストップで対応できれば、クライアントにとっても安心です。
  • 資金調達コンサルティング:自己資金が不足しているクライアント向けに、日本での資金調達方法を提案します。前述の日本政策金融公庫からの融資支援では、事業計画書と併せて創業計画書を書く必要がありますが、そうした書類作成も診断士の得意分野ですよね。英語で質問に答えつつ、日本語の申請書類を一緒に作成してあげることで、クライアントの不安を解消できます。
  • 既存ビザ保持者へのスケールアップ支援:すでに日本で小規模事業を営んでいる外国人(現行要件でビザを取ったケース)が、新要件への適合を迫られる場面も出てくるでしょう(経過措置期間後には、ビザ更新時に高い基準が適用される可能性があります)。そうしたクライアントには、事業のスケールアップ戦略を一緒に考えるサービスが提供できます。
  • 各種セミナー・情報発信:この制度改正そのものをテーマにして、外国人起業家向けセミナーを英語で開催するのも良いでしょう。「2025年ビザ要件アップデート!日本でビジネスをするために知っておくべきこと」といった内容で、基本情報と対策をレクチャーします。セミナーを通じて潜在顧客にアプローチできますし、信頼関係を築くきっかけにもなります。ブログやYouTubeで情報発信するのも効果的ですね。

このように、経営管理ビザの厳格化によって生じるニーズに応える形で、診断士が活躍できるフィールドは広がります。今回の趣旨の通り、日本事業に貢献し、日本の経済発展に寄与してくれる質の高い外国人起業家をサポートすることができるチャンスが広がったという見方ができるのではと思います。

出典:

  • 朝日新聞デジタル(2023年8月29日付「在留資格『経営・管理』の厳格化 自民党内の反対で『例外』なしに」)asahi.com
  • ANNニュース(名古屋テレビ)(2025年8月26日「起業外国人の在留資格を厳格化の方針 資本金を500万円→3000万円に 入管庁」)nagoyatv.com
  • FNNプライムオンライン(2025年8月26日「起業外国人のビザ要件厳格化へ 資本金3000万円以上に 6倍に引き上げ方針 出入国在留管理庁」)fnn.jp
  • 出入国在留管理庁・パブリックコメント概要(PDF)(2025年8月「省令案の概要」) public-comment.e-gov.go.jppublic-comment.e-gov.go.jp

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